Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

殉死 司馬遼太郎

構成

『殉死』は小説ではない。

二部構成で、乃木希典の人物像を浮き彫りにしようと試みた論考だ。

司馬さんは飽くまで「小説以前の覚書き」であるというが、論考と捉えて良いだろう。

 

第1部「要塞」では、西南戦争及び旅順攻略に焦点を当てた乃木希典の半生を綴る。

第2部「腹を切ること」では、乃木希典の思想を考察し、殉死に至る道程、殉死に込めた警世が論じられている。

新装版 殉死 (文春文庫)

新装版 殉死 (文春文庫)

 

 

 

司馬遼太郎の考える乃木希典

乃木希典山鹿素行『中朝事実』という皇室絶対思想の書物をバイブルとし、陽明学的な行動様式を好む人物として論じられる。

 

また司馬作品に頻出する「詩の中に身を置いた人物」であり、詩的な人生を渇望し、自身が詩的に高揚する行動を選択する人物であるという。

「自身が精神の演者」であるということが、陽明学派的であり、詩人的であるという事のようだ。

 

例えば詩的=劇的な行動を以って意思表示を行なっている。

自然死ではない劇的な死を希求し、警世を試みたという点は有名であろうが、婚姻に関してもそうだというのだ。

乃木は薩長閥の対立をみかね、自身は長閥であるにも関わらず薩摩の女なら嫁に貰うと言い、薩長の抗争に警鐘を鳴らそうとしたと司馬さんは考察している。

 

無能?狂人?

司馬さんは、乃木希典を軍事的には無能であると批判しているとするのが、一般的な見解だ。

この『殉死』に至っては、軍事的な専門家から見れば無能どころか、狂人じみているとの痛烈な批判を乃木に浴びせている。

 

この批判に関しては第二次大戦を経験している司馬さんが、皇室絶対主義的な乃木希典≒昭和期の軍というアナロジーで論じているように感じた。

そのため、必要以上に痛烈な批判となり本作に通底する乃木批判が展開されたのだろう。

 

しかし、後に乃木神社主祭神となったことからも推察されるように、乃木希典は精神的な象徴であった。それは、人間乃木希典が魅力的人物であったということであろう。乃木希典という生き方に、明治を生き抜いた人間は郷愁のようなものを感じ取っていたのではないだろうか。