読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

黎明に起つ 伊東潤

はじめに

『黎明に起つ』は、巷間では北条早雲の名で知られる、伊勢新九郎盛時(早雲庵宗瑞)の一代記である。 

黎明に起つ (講談社文庫)

黎明に起つ (講談社文庫)

 

著者には先に刊行された、宗瑞を狂言回しに仕立てた『疾き雲のごとく (講談社文庫)』という連作短編集があるが、ここから更に新説を反映し、重厚感が増した作品となっている。

 

北条早雲とは

f:id:syumpu16:20170411173226j:image

 北条早雲は長く、伊勢の素浪人から身を起こし、下克上を成し遂げた人物として認知されていた。しかし現在では備中伊勢氏の出自であり、室町幕府の申次衆であったことが判っている。早雲は畿内明応の政変と呼応し、駿河今川氏の内訌の調停に成功したことで今川氏の家宰的立場となり、独自に伊豆、小田原と版図を広げ、最終的には相模全土を併呑するに至った。

また享年を88とされていたが、現在では64というのが有力視されている。

 

 

『黎明に起つ』を知ったきっかけ

私が『黎明に起つ』を知ったのは、海道龍一郎著『早雲立志伝』の解説を読んだ時であった。

早雲立志伝 (角川文庫)

早雲立志伝 (角川文庫)

 

なんと、同時期に早雲モノの作品を書いているにも関わらず、海道氏は伊東氏に解説を依頼しているのだ。伊東氏は海道氏に『黎明に起つ』の上梓を控えていることを伝えたが、海道氏は快諾したという。歴史小説家同士の粋なエピソードだ。

その時から『黎明に起つ』は読みたいと思っていたのだが、結果的に文庫化を待つことになってしまった。ただ、文庫化にあたってリーダビリティを高めるなどのリライトが大幅に成されたそうなので、結果的には文庫化を待って当たりだったようだ。

関東戦国史というと戦史が混迷極まり、非常に読みにくくなりがちだが、リライトの結果か、とても読みやすかった。そもそも情報量が多く読みにくいというのは、熟読を好まない読者層の言であり、伊東潤氏の小説を評価するのに「情報量が多く読みにくい」とするのは筋違いであるだろう。

 

 

読んでみて

『黎明に起つ』には中世武士のダンディズムを湛えた長尾景春や三浦道寸などの初老の人物が登場する。これが非常に魅力的に描かれており、面白く読めた。

宗瑞は「民の楽土を築く」というビジョナリー型の人物として描かれおり、最期までそのビジョンを抱き続ける。果ては後代にビジョンを託し、五代に亘りビジョナリー型の戦国大名として関東に覇を唱える事になったのは、その祖、早雲庵宗瑞の手腕に拠るものが大いにあったのだろう。その手腕には感服せざるを得ない。そういう点で早雲庵宗瑞は、私の理想とする人物の一人である。