読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

光秀の定理 垣根涼介

書評 レビュー 感想 垣根涼介 明智光秀 織田信長

レンマ:定理(サンスクリット語
定理:ある理論体系において、その公理や定義をもとにして証明された命題。
そしてそれ以降の、推論の前提となるもの。
(例)ピタゴラスの定理

以上は『光秀の定理』単行本冒頭に掲載されていた定理の説明だ。文庫版では削除されている。代わりになのか、単行本にも掲載されていたのかは判らぬが、文庫版ではチャールズ・ダーウィンの『種の起源』からのものと思われる引用が掲載されている。

最も強き者、最も賢い者が生き残るわけではない。

唯一生き残る者、

それは、変化できる者である。

チャールズ・ダーウィン 

 

光秀の定理 (角川文庫)

光秀の定理 (角川文庫)

 

 さて『光秀の定理』は明智十兵衛光秀の人間性を、創作人物である兵法者 新九郎、破戒僧 愚息との交流を通して考察してみせた歴史小説である。

 

愚息は辻博打を活計としている破戒僧だ。この辻博打が本作のタイトルでもある定理の 「モンティ・ホール問題」を使用したものなのだ。寡聞にして、私は「モンティ・ホール問題」を初めて知ったが、ジレンマやパラドックスとも称される有名な確率の問題のようだ。

 

さて、レンマ(lemma)とはサンスクリット語では定理とされる。現在では特に、数学的には補助定理・補題ともいう。これは、定理の証明を補助する結果を意味するものであり、定理の区分の一種をいうようだ。また哲学においては、四句分別と漢訳されるインド論理学のひとつであるという。

登場人物である愚息の経歴から言って、後者の意味も関係するかとも考えたが、愚息が私淑する釈尊は四句分別を否定したという。そのため、レンマとはタイトル通りシンプルに現在一般に言う「定理」と捉えて良いようだ。

 

本作は“定理”という、理系的な思考法で戦術や戦国の世そのものを捉えた作品であり、他の作品とは一線を画す。また物語の最後には、定理から戦国の世の理も導き出される仕掛けが施されている。

 

合戦シーンなどはないが、定理を絡め、光秀の人間性に深く切り込んだ興味深い作品だ。