Book review 〜春風駘蕩〜

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徳川がつくった先進国日本

戦国期から江戸期への変化は、徳川幕府が開府して武断政治から文官政治へと移行したというような、まるで一朝一夕になったかの如くに語られる。しかし勿論そんなはずはない。それを平易な文章で紹介しているのが『徳川がつくった先進国日本』である。

徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)

徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)

 

 文章も平易ながら、ページ数も156頁ととてもコンパクトな文庫なので、このテーマに興味を持った方は是非とも手にとってもらいたい一冊だ。

 

さて、江戸人は飢饉地震、噴火などに代表される天災や、ロシアからの対外的な圧力などの危機に晒されて、それをひとつひとつ丁寧に乗り越えてきた。これにより、我々がイメージする繁栄した江戸の時代があったのだと著者は言う。

そして、その危機を乗り越える過程で、国防意識の高まりや、民命の尊重などの現在にも通じる理論が醸成されていったのだそうだ。

 

現代においても、地震津波などの天災や、歴史の浅い科学技術の原子力発電の事故による放射能汚染など、危機が多く存在する。これらに対処するに当たって、この江戸人が経験した歴史が参考になるのではないか、というのが著者の持論だ。その中で最も重要だと説く一文を以下に引用する。

目の前の問題が大変だからといっても、百年の計、すなわち長期的な視点を失わないようにしなければなりません。それが、幾多の危機を乗り越えてきた江戸時代の人びとの生き方から学びとることができる、最大・最高の教訓だと、私は思います。

江戸時代の人々は、その成否は置くとしても長期的な視点を持って行政に当たったのだという。その長期的な視点こそが「愛民」という視座を与え、天賦人権論の萌芽のようなものを見出していたのだろう。

 

点で学んでいた江戸時代の歴史が、本書によって線で結ばれた。特に歴史を学ぶ事の意味を、全体を通して実感できる構成になっていたように思う。“今”は過去の積み重ねである事を忘れずに、歴史に学び、個人でも長期的な視点を失わないようにと思わずにはいられない良書であった。