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Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

高瀬舟 森鴎外

京都旅行の際、高瀬川を通り掛かった事がある。高瀬川流域には、新撰組の御用改めで有名な池田屋跡をはじめ、幕末志士の遭難地など史跡が数多くあり、私はそれらを回っていたところであった。

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佐久間象山 大村益次郎 遭難之碑(後ろに流れる小川が高瀬川

 

あの頃はまだ『高瀬舟』は未読であったが、高瀬川に架かる橋を渡り「あの高瀬舟の舞台か、小さい川だな」と思った記憶がある。現在の高瀬川は川幅が約4m程しかない。しかし『高瀬舟』を読むと、どうもそんな小川のイメージとは違う。成る程調べてみると当時は川幅が8mあったそうだ。

高瀬舟』はそんな高瀬川を舞台に、朧月夜に黒く沈んだ水を切る舟の上で、乗り込んだ人物の過去が語られる物語である。

 

そもそも高瀬舟とは何なのか?以下に冒頭を引用する。

 

山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

 

 高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島を申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞をすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、大阪へ廻されることであつた。それを護送するのは、京都町奉行の配下にいる同心で、此同心は罪人の親類の中で、主立った一人を大阪まで同船させることを許す慣例であった。これは上へ通った事ではないが、所謂大目に見るのであつた、黙許であつた。

過去を語る人物とは、とある罪人なのである。

しかしその罪人は、寡欲な人柄で遠島になるほどの罪を犯すようには思われない。しかもその罪とは殺人、ましてや縁者の殺人だったのだ。罪人は求められてその過去について述懐をはじめる。殺人の動機とは何だったのか。

現代今なお、その是非が問われ続ける倫理問題がここに提起されている。