読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

「虚談」 ベンチ

 

記憶の中のおじさんのはなしである。

 

主人公は、昔にとある交流をもったおじさんの事を思い出す。自分以外には母親以外“おじさん”を記憶している人はもう亡くなっている。ましてや子供時代の記憶なので、時期などはうろ覚えになりそうだ。しかし「宇宙猿人ゴリ VS スペクトルマン」という特撮番組を足掛かりに年代を、そしてプラモデルを足掛かりに存在の確信をもつ。

 

ところで「宇宙猿人ゴリ VS スペクトルマン」だが、空想特撮シリーズに代表される第一次怪獣ブームを終え、新作特撮作品不在のヒーロー暗黒時代を破った1971年放送の特撮ヒーロー番組だ。仮面ライダーや、ウルトラマンが帰ってくる1クール程前に放送が開始されているため、第二次怪獣ブームの嚆矢ともいえるだろう。その他タイトルなどについては、作中に詳しい説明がある。

 

主人公はこの特撮作品を基準とし、おじさんの記憶を手繰った。また物語は、'70年代前半の高度経済成長期晩期が舞台となっている。この時代は普通、元気な時代という先入観があるが、物語には負の部分を一身に背負ったような暗さがあり、記憶の中の妖しさが際立っていた。

 

タイトルの「虚談」にしろ、サブタイトルの「ベンチ」にしろ、物語を理解する手掛かりになるはずなのだが、この話は巧妙に事実と嘘とが絡み合っているため理解しづらい。

 

記憶を解読すれども、解釈はしない。

 

それが事実と嘘の間であり、この小説の面白味なのだろう。

 

vol.25 所収   京極夏彦「虚談」ベンチ より