Book review 〜春風駘蕩〜

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酔って候

「鯨海酔候よ。鯨のごとく酒を飲む殿様てのは、天下ひろしといえどもおれだけだ」p.99

酔って候<新装版> (文春文庫)

酔って候<新装版> (文春文庫)



土佐の老公、幕末の四賢公の一人、山内容堂を主人公にした小説。

司馬遼太郎は土佐を題材に実に多くの作品を描いている。
言わずと知れた「竜馬がいく」や、玉松操を主人公に岩倉具視らの暗躍を描いた「加茂の水」、幕末の人斬りといわれた岡田以蔵を描いた「人斬り以蔵」、そして土佐藩参政 吉田東洋 を描いた「土佐の夜雨」などは同時代の作品であるため、相互的にスピンオフという関係性が見出せるであろう。

また、土佐を描くに当たっては、司馬遼太郎は上士と郷士の差を強調する。とある事情によって、郷士は武士でありながら上士に差別的に扱われていたのだ。

端的にいえば上士とは、関ヶ原合戦後に土佐に封じられた山内の家臣団の末裔を指す。対して郷士とは、元々四国を領土としていた長曽我部の家臣の末裔だ。長曽我部は関ヶ原合戦にて西軍に与したが故に武士階級ではあるが、底辺に貶められてしまい、差別的扱いを受けるようになったのだ。

山内一豊に関していえば「功名が辻」、長曽我部では元親の一代記「夏草の賦」や関ヶ原合戦後の盛親を描いた「戦雲の夢」といった司馬作品もある。

こうして見ると、司馬遼太郎は「竜馬がいく」を筆頭に土佐の物語を多角的・多時代的に描いていることがわかる。これは、「竜馬がいく」が人気を博したが故の読者の要請であったと推測する。


さて「酔って候」の物語は、容堂の若年から起こされ、土佐藩主を襲名し、幕末の動乱に巻き込まれるといったものだ。

容堂は自らを鯨海酔候と呼ぶ程の酒乱だ。
常に酒気を帯び、気が尊大になっている。
その容堂が、酒精を孕んだ気焔をあげる様は痛快である。

個人的に容堂は、大河ドラマ龍馬伝」の近藤正臣の怪演のイメージが強く、また好みであったが、本作の容堂も酒乱ぶりが徹底しており魅力的に感じた。


司馬遼太郎作品を読んだことがある方は必読の一編だ。