Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

手首を拾う

そして 、庭に 、この庭に降りたのだ 。
月が明るかったなあ 。
耿耿と照っていた 。
池の縁まで行った 。水面が鏡のように滑らかで 、その艶やかな表面にも矢張り耿耿とした月が映っていた 。no.266/2646

かつて7年前に妻と訪れた宿に、あの時と同じ方法で、道のりで、もう一度訪れたはなし。
目的は、7年前に宿泊した部屋で見た庭にある。

その時に見る風景も、感じるものも、7年前と殆ど同じ筈なのだが、何かが違う。
ズレている。
気持ちが悪い。
…といった感じ。


本作では五感を刺激するような描写が多い。
汚い見た目、煩わしい音、気分の悪いにおい、不味いものではないという食事…

そういった表現が、主人公と読者とをシンクロさせて、本来あり得ないクライマックスにリアリティを添えている。