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Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

消えた伊勢物語

藤原定家の註釈が書きこんである伊勢物語の原本が 、武田信玄の寝所から消えて失くなったことが分ったのは永禄九年 (一五六六 )二月のはじめのことである。no.728/2630

武田三代 (文春文庫)

武田三代 (文春文庫)



今川義元から貸り受けた武田信玄伊勢物語が盗まれた。
その犯人を探し出すという、サスペンス色のある作品である。
また、「異説 晴信初陣記」に登場した忍びの者が再登場し、活躍をみせる忍者小説的な側面もある。


信玄は今川家と同盟を結んでおり、嫡男 義信 は、今川義元の娘である於津禰(おつね)を正室として迎えている。
そのために、今川義元から借り受けた伊勢物語が盗まれたという事実は、政治的な問題を孕んでいるのだ。

ただ、この事件が起きた時期には、今川義元桶狭間の戦いによって織田軍に討ち取られており、嫡男の今川氏真家督は移っている。


ちなみに、本作では義元は「今川義元ほど 、京都かぶれした武将はなかった 。住居を京都の御所に真似たばかりでなく 、服装も好んで公卿風なものを着た 。」no.789/2630といったふうなステレオタイプな描き方をされている。

また嫡男 今川氏真 に関しても蹴鞠好きな暗愚といったふうな描き方をされていた。
つくづく近隣大名の噛ませ犬的なポジションに甘んじ、正当な評価をされにくい親子である。


さて、話は戻って武田信玄伊勢物語である。新田次郎氏の別著「武田信玄」においてもこの伊勢物語のエピソードは登場するようだ。
しかし、ネットで調べた限りでは、他には武田信玄伊勢物語が盗まれたという事実はヒットしなかったため、創作である可能性が高そうである。


小説の最後にはこの事件が、武田家にとっての大事件ともなるあの件に繋がるため、そこへの架け橋的な位置付けなのだろう。

信玄の内面を映し、サスペンス・忍者要素を付加し、上質なエンターテイメント作品に昇華させた作者のストーリーテリングには脱帽だ。