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Book review 〜春風駘蕩〜

気に入った本の書評・感想や本関連の話題を書いていきたいです。

果報者の槍

ーーわしも、この粗朶のように、あの時、一瞬の輝きを放ったのだ。
新助が生涯唯一、輝いた場こそ桶狭間だった。 p.45



桶狭間の戦い今川義元の首をあげた男、毛利新助が主人公。

立身出世を望まぬ、職人気質な実務家のひとがいるが、毛利新助がそれであったようだ。

信長の一代記として知られ、信長研究の一級資料としても有名な『信長公記』において「毛利新助」の名は、“桶狭間の戦い”と、“本能寺の変”でのみ確認できるという。
しかも、その職は共に馬廻衆であり、22年間出世していないのである。

これには違和感を覚えた。
織田軍といえば、競争至上主義の軍団というイメージを持っていたからだ。

どうやら、織田軍は競争を原則としつつも、出頭(出世)を望まぬ者には適材適所で人事を行っていたという側面もあるようだ。

今から400年以上前にも職人肌で、出頭を望まず、ただひたすらに己の仕事を成していた人がいたという事実は、親近感を覚え、毛利新助が血が通った人間に映る。



さて、小説は冒頭での厩から桶狭間に向かうシーンなどは、スピード感がありリアリティ溢れる筆致だ。
なぜ新助は、馬廻衆に居続けたのか。

その心情描写からクライマックスにかけては、無骨な男の人生が凝縮されている。